STORY

ここは京都府の北。
日本の農家特有の『田の字型』の間取りで、築約80年の民家に住むご家族のお話―。

悩みと決意

寝室はわずか4畳半の納戸。サッシガラスを1枚隔てたら外。
すきま風が床下からも天井からも、サッシのすき間からも入り込み、冬は眠っていても寒さで目が覚めるほど。

特に浴室やトイレの窓のすき間からは粉雪までもが吹き込み、
「お風呂に入るのは勇気がいる・・・」
と言われるほど、とにかく冬の寒さが一番の悩みでした。

とある冬の日。ご主人があまりの寒さにとうとう納戸で寝るのをやめ、以前リフォームした子供部屋を寝室として使うことにされました。
しかし、お子さん達の帰省の度に布団を持ってウロウロ…。寝る場所に困り果て、嬉しいはずの帰省を心から喜べなくなったといいます。
使い勝手も悪く、掃除をしてもだんだんきれいにならなくなり、一時は建て替えも検討されましたが、

「この家は先代が自分のとこの山から木を伐ってきて建てた家だ。外材は使っとらん」

とお父様がいつも誇らしげに話されるのを聞き、
ご家族は思い出のある家の形と梁や柱を残す「改築」を決意されたのです。

思いがひとつになるとき

家づくりの計画がスタートし、何度かお宅にお伺いする中、花が大好きな奥様が丹精込めて手入れをされている庭では、バラを中心にたくさんの花が咲くようになっていました。しかし、こんなにたくさん花があるのに、ほとんどが鉢植えの上どれも家の中からは全く見えない場所で育てられており、勿体なさを感じていました。

そこで、この花たちを使い、家の中から眺められる場所に庭をつくることを提案したのです。

「家の中から花を楽しむ暮らし」

これは子供の頃から花づくりが大好きで、自分が育てた花を家の中から眺めて暮らしたいという、奥様が幼い頃からずっと抱いてこられた夢です。

私どもからの提案は、まさに長年の願いが叶うという喜びの施主様と弊社の方向性がひとつになった瞬間でした。

家づくりは寒さ対策中心に、庭づくりは家の表側に『道行く人が楽しめるような庭』、家の裏側には『奥様のお気に入りの花ばかりを集めた家族が楽しめる庭』へと、家の改築工事と共に庭の改造プロジェクトがはじまりました。

6年後のインタビュー

― 工事中はどうでしたか?
ご主人
暑い時やったねぇ。大工さんがのびてねぇ。
奥様
もう、暑い時も寒い時もホントご苦労でした。
ご主人
半年くらいかかったんちゃうかなぁ。
奥様
そういえば、私。感心したというか、ビックリしたことがありました。
いつもその日その日の仕事が終われば、きれいに片付けて帰られるんですねぇ。今までの経験上、作業が終わるまではバンバラコなんだと思ってたんですけど、どんなにバラいてても、どんなに時間が来て遅くなってても、やっぱりきちんと片付けて帰られるっていうのが、仕事に表れるんだなって。一生懸命してくださったんだなって思っています。

だから(仕事から)帰ってからでも見るのが楽しみでした。足元が悪いとかないし。住みながらだったけど全然不便を感じなかったし。違う場所にある台所に行くのに朝早くから星空見られたりとかね。『今日は星がきれいだわ』とか『こんな時間にはこれが見える』とか、今までそんなことなかったじゃない?色んな所でよう考えて頂きました。

そういう仕事ぶりの中で作ってもらったお家なので、満足です。形あるものを作ればいいんじゃなくって、色んなそういう気持ちが伝わってくるので、気持ちよく住まわせて頂いています^^

掃除をすることは、どの現場でも普通の風景なので、そこを見てくださったことに驚きました。

ご不便をお掛けする中、改築現場の変化に楽しみを見出しながら日々暮らしておられたのだなと感じました。

家づくりに対する職人さんたちの情熱を感じ取って頂けたことが何よりも素直に嬉しいです。

― 改築をして良かったことは?

奥様
お風呂が一番ねぇ、やっぱりぃ。
ご主人
温泉に行かなくなったですねぇ。
奥様
あんだけ行きたかったんだけどぉ。
ご主人
前はよう行ったんだけど。
奥様
(今は)十分あったまれるもの。
ご主人
もう、めんどくさいし。
奥様
そして(お風呂まで)行くのが寒くないもんねぇ。昔は寒くてぬるくてねぇ。冬場、子どもらが帰って来たって「お風呂行って。誰が行く?あんた先に行って」なんて言うてねぇ。寒くてなかなかみんな行かなかったけど(笑)。今では「私が行く!」ってサッと行きます。本当にお風呂最高です^^
ご主人
あと床暖房!温かいですよ。ちょっと入れただけでねぇ。
奥様
この前冷え込んだ時ちょっと入れたけど、もうそれで十分温かいし、床暖いいですよ!本当に冬場が。部屋を出ても、ウ~ッという寒さもないし。スリッパ履かなくてもいいし。冬でも昼間はエアコン切って、床暖だけで過ごせます。夜よっぽど冷え込んだ時にエアコンつけようかっていうぐらい。(床暖は)エアコンみたいに乾燥しないし、こたつを入れても『弱』のまんま。石油ストーブなんて物置にしまったまんまで使ってないねぇ。床暖房さまさまです^^

暮らしの中で体感されているお客様は、云わば弊社の頼れる営業マンと言ったところでしょうか。お風呂から床暖房まで全部説明してもらっちゃいました。

こちらのお宅は低温水式床暖房[うらら]を1階全部に入れました。寒い場所がないので、ヒートショック防止に役立ちます。

エアコンをあまり使わないから空気が乾燥しにくいし、石油ストーブを使わないから結露しないのが良いですね。

この床暖房は無垢のフローリング材はもちろん、畳でもタイルでも使える優れものです。

― ご主人のお気に入りの場所は?
ご主人
死んだ爺さんが(家を)建てて、それからず~っと先祖代々つづく家ではないけど、ここ(居間)の柱も割とええ感じになってきたし、こういう思い出も部分的に未だに残っているのが、ええかなぁと思って。そういうのが、まぁ新築にない良さっていうかねぇ。伝統的なのがええなぁと思って。

全て壊せば何もなくなってしまうんだけど…やっぱり苦労して(ご主人のお爺さんが)材料から出して建てた家が残って、ひとつ引き継いでいく家っていうか、そういうのがええかなぁと思います。

残すべき材

縁側

桧の階段

「(お気に入りの)場所ぉ?そんなないですけど…」とご主人。

居間の指定席に座り、天井を見上げたり、柱を見たり。部屋を愛おしそうに眺めながら、穏やかな口調で言葉を紡ぎ出される姿が印象的でした。

愛煙家のご主人の喫煙場所はウッドデッキと決まっているんだそう。
インタビュー中もウッドデッキへ(笑)

指定席の脇にはご主人の趣味の記事の切り抜きに必要な新聞や雑誌などがたくさん。インタビューが済むとすぐに取り掛かられていました。お待たせいたしました。

― 奥様のお気に入りの場所は?
奥様
「もう、そりゃあ、庭ですよ~」
朝起きて、朝ご飯の用意をする前に、ぐるっと(庭を)一周回って。(花に)「おはよう!」って話しかけて。ふふふ。それからご飯を食べて、また庭に出て。雨が降らなければ一日中庭にいます。

どこからでも庭が眺められるように家の表にも裏にも庭をつくってもらいました。だからどこにいても気持ちがいい!

ここ(居間)はそれこそいいんだけど、向こうの部屋もこっちの庭が見えて、すっごく寛げるいい場所。2階に行ったら行ったでまた違う景色が見えたりとかね。こっちの作業をした時は向こうの2階から眺めて見て「あ、こうだな」っとかね(笑)
本当によく考えてもらいました。

緑色の缶は空き缶を利用したモグラおどしを兼ねた花の名札。ご自分で塗装されたそうです。

畑はあれど庭はなく、せっかく育てた250もの花の鉢植えも家から見えませんでしたが、今では「ウッドデッキで庭を眺めながらお昼ご飯食べるのよ。とっても気持ちがイイの♪」と奥様。

「家の中からお花を見る暮らしは実現できましたか?」とのスタッフの質問に、「ハイ!お陰様で^^」と。まるで少女のような微笑みでした。

また今日も庭に出て、花に話しかけていらっしゃる姿が目に浮かびます。

インタビューを終えて

弊社のモデルハウスに初めてお見えになった時、当時お住まいだった古い家のお悩みと、「こんな風に暮らしたい!」というご自分の熱い思いを話されていた姿が、つい先日のように思い出されます。

工事が在宅のままだったため2期に分け、1期が終わると出来上がった方に家財を移動し2期に入るというご不便もお掛けしました。それでも出来上がっていく様子を毎日ご覧になるのが楽しみだったということをお聞きし、私たちも安堵いたしました。

完成して、まもなく6年―。

ご家族の最大の悩みだった『寒さ』を、今では全く感じないとおっしゃいます。居間で趣味を楽しまれているご主人ともっぱら『庭』が暮らしの中心となった奥様。日々の暮らしを満喫されているお二人の様子を拝見し、とても嬉しい気持ちになりました。

『住まいによって人の心はこんなにも変わる…』

今回の取材で、以前、奥様からいただいたお手紙の言葉を思い出しました。
住まいとは人の心をも動かすのだと、改めて家づくりに対する責任の重さを感じたインタビューとなりました。

【取材日】2016年10月18日