《コラム》35 「コウノトリ」

投稿日:2018.07.03

 コウノトリが悠然と舞う町。豊岡市はかつて野生のコウノトリが日本で唯一生存していた町でした。

 生息数の減少により1955年から官民一体となって保護運動が始まるも1971年に絶滅。何としてもコウノトリを復活させたいという願いのもと、ロシアから譲り受けたコウノトリの人工飼育によって1989年に待望のヒナが誕生。飼育羽数が100羽を超え、2005年に初めて野外放鳥が行われました。

 極東に棲むコウノトリは、世界中でも2千~3千羽しかいない絶滅寸前の鳥です。その「種」の保護と野生復帰は、国際的にも重要なプロジェクトであり、豊岡で得られる成果に期待が寄せられています。大型で肉食の鳥・コウノトリが野外で生息していくためには、餌となる生きものにあふれた「豊かな自然」が必要です。

 一度は絶滅した生物を再び人里で野生復帰させた事例は世界でも例がなく、高く評価されています。しかし野生復帰には巨額の費用と時間を要するため、何より市民の理解が必要なのです。

 「中貝市長はコウノトリにばっかりお金を使いなる」という言葉を聞くことがあります。しかしここで大切なのは「コウノトリが棲める」ではなく、私たちの暮らしのありようを含む「コウノトリも棲める」環境を再生し、創造していくこと。それこそが、このプロジェクトの最大のねらいなのです。人間のエゴでコウノトリも住めないような環境にしてしまったことは、ひいては人間も住めない環境になりかねないからです。

 中貝市長に話を聞く機会があり、「コウノトリ育む農法」で栽培された無農薬の米が世界に向けて販売されている現状を聞いてみた。
「市長、どうして世界のあちこちから米の注文がくるのですか?」
「それはコウノトリを野生復帰させた地域の人達はきっと正直なんだろうと評価してくださる、その人達が作った米は安心して食べられる」と。
それは正に綺麗な環境を取り戻そうとしている市民の姿そのものを評価してもらっているのだろう。

 正直なものつくり、あらためてその姿勢の大切さを感じた言葉でした。

※豊岡市ホームページ:コウノトリと育む/野生復帰プロジェクト/プロジェクトの「3つの目的」より引用
※写真は「コウノトリ育む農法(無農薬)」にて稲を栽培されている方の草取り風景(6月下旬)です

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